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日々の雑記帳

ウイニングチケット&アグネスフライト

 今週は競馬ファンにとって大イベントの東京優駿、通称日本ダービーである。特に今年は第80回という記念すべき年でもあるのでJRAも大いに力を入れているようだ。

 その日本ダービー当日である5/26(日)に東京競馬場に第60代ダービー馬ウイニングチケットと第67代ダービー馬アグネスフライトが来場する(JRAホームページお知らせ)。

 この2頭は奇しくも私が2007年に『優駿』第4回競馬ライター発掘プロジェクトの「ダービー」というお題の時に応募した作品で登場してもらった2頭である。この2頭は2007年当時はもちろん今でも最も印象に残っているダービー馬だ。特にウイニングチケットは初めて見たダービーの勝ち馬でもあり、またそのレースは体が震えるほど感動した。競馬を始めてから暫くの間は一番好きな馬といえばウイニングチケットだった(ちなみに私の好きな馬はこちらを参照)。アグネスフライトもまた、生で見たダービーの中では最も印象深い馬だった。

 別にこれを企画したJRAのイベント担当の方は私がホームページで公開しているその作品を読んだのでその2頭を選んだわけではないだろう。まして、関連会社の優駿編集部の倉庫に埋もれている(かもしれぬ)6年前の落選作品の原稿を読んで決めたということはまずありえない。でも、私の心に残るダービー馬2頭が府中に来てくれるのは嬉しい。

 というわけで、その6年前に「ダービー」と題してウイニングチケットアグネスフライトのことを書いたエッセイをここにも掲載しよう*1

ダービー


 競馬の主役はもちろん馬であるが、手綱をとる騎手もまたレースでは主役ともいえる。ダービーの様な最高峰のレースともなると、どちらが欠けても完全なものとはならない。
 競馬を始めて間もない初心者の頃に私は、寺山修司の著書で柴田政人の騎手列伝を読んでいた。見習い騎手のころアローエクスプレスという名馬に出会った柴田政人が「この馬で俺もダービージョッキーになれる」と密かに期待していたが、非情にもその馬は当時のリーディングジョッキーである加賀騎手に乗り替わったこと等が書かれていた。これを読んだ直後に行なわれたダービーがBWN3強対決と言われたダービーであった。WINS後楽園でそのレースを見ていたのだが、結果 はウイニングチケットの「執念の勝利」だった。東京競馬場の満員のスタンドからは「マッサット!マッサット!」と政人コールが涌き起こっていた。直前に読んだ本のせいか、このコールはとてつもなく感動的だった。
 そして数日後。食堂で偶然かかっていたテレビで、ダービーの特集をしていた。柴田政人騎手は20回以上もダービーに挑戦していて、初めてその栄冠を手にしたそうだ。私の脳内で寺山の騎手列伝にあるアローエクスプレスの時期とウイニングチケットでダービーを征した時と言う2つの「点」が、この特集によって「線」として結ばれた。番組内で流れていた当日の東京競馬場でのレース後の「政人コール」を再び聞いて、体が震えるぐらいの感動を受けた。競馬を見始めて1年もたっていないのにこれだけの感動を味わえるとは、ダービーはやはり特別な存在である。
 その柴田政人騎手は翌年4月に落馬事故で負傷し翌年のダービーには出場すらしていない。そのまま復帰することなく引退。結果的にそれが最後のダービーとなった。ウイニングチケットは他の騎手が手綱をとる事になったが、その年の秋天で怪我のため引退。鞍上が自分の能力を最大限に発揮させてくれた「いつもの人」では無くなったことに違和感を持ったのだろうか、後を追うような引退劇だった。引退式では柴田政人が騎手として登場したものの、彼が着ている服は勝負服ではなくスーツだった。そして次の様なコメントを残した。「この馬は私にダービーを勝たせるために生まれてきたような気がします。」
 ディスクボックスで何度もこのレースを見ているが、ゴール前の実況は「ウイニングチケット柴田政人」の連呼。「勝ったのはウイニングチケット柴田政人。」第60回ダービーを勝ったのは「ウイニングチケット」でもなければ「柴田政人」でもない。あくまで「ウイニングチケット柴田政人」なのである。どちらが欠けてももう片方がダービーを勝つことは無かった。私はそう思っている。

 もう一つ感動的なダービーといえばアグネスフライトが勝ったダービー。弟弟子武豊が入ってくるまではナンバーワンジョッキーであった河内洋騎手の最初で最後のダービー制覇。これほどの名手でも16回もダービーに挑戦していて勝てずにいた。
 1番人気はその武豊が騎乗する皐月賞エアシャカールアグネスフライトは2番人気。しかし、ダービーを勝てずにいる名手河内に勝つチャンスのある騎乗馬が回ってきた。河内騎手の執念に期待してアグネスフライトの単勝勝負をすることとした。前日パチンコで稼いだ金額からその日のそれまでの負けを差し引いた15000円でフライトの単勝勝負。
 レースではエアシャカールは道中後ろから3番手につけ、アグネスフライトはそれを見るように最後方から。4コーナー手前で馬群が一団となり、長い府中の直線での追い比べが始まる。ゴール前では先頭を行くエアシャカールと追いこむアグネスフライトの壮絶な叩き合い。17回目のダービー挑戦で初制覇にかける河内洋。そうはさせるかと武豊エアシャカールは直線で外に大きくよれ、アグネスフライトに体当たりをせんかという勢いで執拗に迫る。それにひるむことなくアグネスフライトは鼻差先着。その差7cm。執念の勝利だった。進路妨害で審議になったが被害馬が最先着なので着順は到達順位通り確定。
 結果的にアグネスフライトが先着したからよかったが、もし、加害馬エアシャカールが先着して降着になり、繰り上がりの1位がアグネスフライトになったら、せっかくの河内のダービー初制覇が、釈然としないしらけたものになってしまっただろう。
 単勝馬券が当たったが結局馬連の方が高かったし、リスクも低かったと思われる。ギャンブルとして考えると2頭の馬連の方が正解だろう。しかし、直線で河内の勝利を必死で願い、そしてその勝利の喜びを一緒に味わうことができた。この興奮と感動が倍増したのは単勝勝負のおかげである。このことを考えると単勝勝負をして正解だった。

http://www.saturn.dti.ne.jp/~endeavor/horse/essay/yushunpj4.html

 では、ウイニングチケットさんとアグネスフライトさん、明後日東京競馬場でお会いしましょう!

*1:競馬のお時間」のエッセイコーナー「そこに馬がいるからだ」にも同作品を掲載しています。