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日々の雑記帳

直木賞受賞作「首里の馬」に登場する馬の名は

 今年の直木賞を受賞した高山羽根子の「首里の馬」を読んだ。日本在来種の馬で沖縄県の天然記念物に指定されている宮古馬が出てくる話であり、そのことを聞いて興味を持ったので読んでみた。

 動物に詳しくない、というより動物に関する知識がほとんどない主人公の女性の家の前に、迷い馬の宮古馬が佇んでいた。最初は主人公はそれが何の動物かすらわからなかったのだが、洞窟のようなところに密かに匿い、最後には乗りこなすようになるというストーリーである。

 主人公はその宮古馬にヒコーキと名付けた。どこかで聞いたことのある馬名だ。サラブレッドに昔ヒコーキグモ(父キーン)という小田切有一さんが馬主の馬がいたが、それではない。戦前行われていた琉球競馬で昭和3年頃に大活躍したという名馬である。私は、以前、「消えた琉球競馬―幻の名馬「ヒコーキ」を追いかけて」という本を読んだことがあるので、その馬のことを知っていた。琉球競馬きっての名馬である。

 琉球競馬とは沖縄語でンマハラセーといい、琉球王朝時代から戦前まで行われていたが、太平洋戦争により途絶えてしまった「競馬」である。宮古馬などの小型の在来種による競馬だ。普通の競馬のような「速さ」だけを競うものではなく、「美しさ」を競うものである。着飾った2頭が横並びで走り、その姿の美しさを競う競技だ。

 その琉球競馬の名馬ヒコーキは白馬だったようだが、首里の馬に登場するヒコーキと名付けられた宮古馬は褐色っぽい毛並みの様に描写されていた。琉球競馬のヒコーキは昭和初期の馬だが、この作品の舞台は年こそ明言されていないものの、描写からは2010年代と思われる(少なくともスマホがある時代であることは明らか)。
 両者には血統的なつながりもなければ姿が似ているわけではない。なぜ、そんな名前を付けたのだろうか?単なる偶然なのかな、と思って読み返してみると、かつて地元の古い資料を集めるのが好きな老人が言ってた馬の名前をふと思い出し、とっさにその名前を付けたのであった。主人公が唯一知っている、宮古馬に付けられた名前だということだ。

 ところで、その物語の舞台は宮古島ではなく沖縄本島なのだが、沖縄本島宮古馬が迷い馬として現れることってあるのだろうか?宮古馬は宮古島にしかおらず、21世紀の沖縄本島に出没することはまずありえないと思うのだが。ただし、この記事によると、2013年に琉球競馬が沖縄市で復刻開催されたようなので、その時に宮古馬が使われたとすると、全くありえない話ではないかもしれない。