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日々の雑記帳

マルドゥック・スクランブルはギャンブル小説としても楽しめた

 最近読んだ本に、冲方丁の「マルドゥック・スクランブル」という小説がある。未来の世界を舞台としたSF作品である。

 この作品に登場するカジノのシーン、特にブラックジャックのシーンが読み応えがあった。未来が舞台のサイバーパンク作品だが、ギャンブル小説としても楽しめる。SF好きでなおかつ阿佐田哲也先生の小説も好きな(「朝だ☆徹夜」というハンドルネームを名乗ることがあるぐらいなので)私のような人間にはうってつけの作品だ。

 ただし、これを読んだからといって現実世界のカジノで勝つためにはあまり役立たないだろう。なぜなら、この作品におけるブラックジャックでは、主人公がある方法を使ってカードカウンティングを行なっているからである。カードカウンティングとは、ブラックジャックにおいて、使われたカードから残りのカードを推測して、プレイヤーに有利になるようにかける方法である。この方法を使うと期待値がわずかに1を超えることが知られている。だから、カウンティングを使ってることがバレると追い出されるらしい。

 この作品では、カードカウンティングを駆使した主人公とカジノのディーラーとの駆け引きが面白いのである。

 ちなみに、主人公はカジノで大儲けするためにゲームに臨んでいるわけではない。とある訴訟で重要な証拠となるデータが入ったマイクロチップを(滅多なことではプレイヤーが手にすることがない)カジノの100万ドルチップの中に埋め込んで隠してあるという設定で、そのデータを読み込むために100万ドルチップを手に入れようとしているのである。主人公は100万ドルチップを何枚か一時的に手にするが、データを読み取った後はカジノのボスキャラ的存在であるディーラーとの勝負で大敗し、最終的には1万ドルの儲けでカジノをあとにする。

 作中ではブラックジャックだけではなくスロットマシーンやルーレットやポーカーも登場するが、特にブラックジャックのシーンの駆け引きが格別に面白い。この作品を楽しむためには、ブラックジャックのルールを覚えておいた方が良い。

 ところで、作中のカジノにあるブラックジャックの台ではカウンティング防止のためにカードの中に赤いカードを入れていて、そのカードが来たら最初のシャッフルからやり直しというルールにしている。10年以上前に私がマカオのカジノに行った時、そこでは1ゲームごとにカードを回収しシャッフルし直していた。そのカジノではカードのシャッフルも機械を使って自動で行なっていた。だからカウンティング防止のために1ゲームごとにシャッフルし直すことができるのである。シャッフルが自動で行われるので、もちろんディーラーがテクニックを駆使してカードを思った順番に並べるということはできない。10年以上前の時点(この作品の原版が出版されたのと同時期)でこんな感じだった。

 この作品の舞台は未来の世界なのであるが、未来の世界のカジノでわざわざディーラーがカウンティング防止のための赤札まで使って、ある程度ゲームが進んだ時点でカードを回収してシャッフルし直すという昔ながらのやり方をしているとは、想像ができない。あくまで話を面白くするための演出だろう。

 ちなみに、この小説の原版は2003年に出版されたが、2010年に大幅に改訂されていて、私が読んだのは2010年の改訂新版である。上記の感想(?)は改訂新版を読んでのものなので、原版では必ずしもそうではない(読んでないのでわからない)ということをお断りしておく。ちなみに、2010年に改訂されたのはアニメ映画化されたのでそれに合わせたようだ。映画版は観ていないが、DVDが出ているようなので今度観てみようかな。カジノのシーン以外も面白かったし。ただし、映画の尺の中で小説におけるブラックジャックの駆け引きの面白さがうまく表現できているかは、よくわからない。おそらくアクションシーンがメインの作品になってるんだろうな。

 余談だが、「マルドゥック」とは「天国へ昇る階段」という意味だそうである。昔、ロッテにいた外人選手の名前ではない(笑)。(ちなみにロッテにいた外人はマドロック。)